屋久島の植物について

屋久島の植物について

1月から3月にかけて花が咲く植物

屋久島の冬は、冬であって冬でないような、実際体験してみないとわからない不思議な季節です。北に位置する上屋久町で、北西の風が吹きすさび、山に冠雪が見られるにもかかわらず、同じ日に車を走らせて南の屋久町まで出かけると、ぽかぽか春の陽気でハイビスカスも咲き、車の中では汗ばみ、南向きの日当たりのよいところではビワが色づいていて、完全に今が1月ということを忘れてしまいます。早い話が、ひとつの島の中で、日本海側気候と太平洋側気候を一度に感じられるというわけです。

花々も、秋の残りのツワブキが咲き残っている一方で、日当たりのよい地面にジッと近づくとスミレなどの小さな花が、春がそこまで来ていることを感じさせてくれます。

アオモジ(クスノキ科)

■アオモジ(クスノキ科)
アオモジは、山に春の訪れを告げるように、黄緑色の花を枝いっぱいに咲かせます。クスノキ科は、大半は常緑樹ですが、これは落葉低木植物なので、サクラのように冬には葉を落とし、春に枝に花を咲かせます。写真は1月に撮影したものですが、まだ葉が落ちきっていない状態です。つぼみはもうしっかりと付いていました。つぼみもつぶすと柑橘系のさわやかな香りがします。葉や枝にも香りがあります。その香りを利用して、屋久島の宮之浦に昭和20年代には、香料を取るための工場がありました。(写真はアオモジの蕾)

タチツボスミレ(スミレ科)
タチツボスミレ(スミレ科)

■タチツボスミレ(スミレ科)(写真上段)
全国に普通に見られるスミレですが、1月にもう咲いていたのでここで取り上げることにしました。「春はもう来ているんだよ。」と地面からささやいているように、ひっそりと弊社ガジュツ畑の畝に咲いていました。まだまだ、台風並みにすごい北西の風が吹く時期ですが、次の季節のほころびを間近に感じることが出来る自然に魅了されます。

また、季節はもう少し後になりますが、高所に見られるスミレで世界で屋久島だけに分布する、固有変種のコケスミレ(写真下段)、固有品種ヤクシマタチツボスミレがあります。

クサトベラ(くさとべら科)

■リンゴツバキ(ツバキ科)
本によってはヤクシマツバキとも書かれています。ヤクシマから報告されたということですが、四国や九州にも分布。普通のツバキよりも果実が大きく10cm以上にもなり、果皮が1.5㎝と厚く、色も少し紅がかるものもあり、その実がリンゴのようであるので、この名が付いています。山の中で初めて出会ったときは、「美味しそう!」と感じたのは、食いしん坊だからでしょうか?山中だけでなく海岸沿いや川岸の低地などにもよく見られます。昔は、その種子から椿油を採取していたということですが、現在も集めて業者に精製してもらう愛好家もいます。揚げ物もカラッとあがるようです。

1~3月に見られる薬草

オオゴカヨウオウレン(キンポウゲ科)

■オオゴカヨウオウレン(キンポウゲ科)
山地の樹林下の湿ったところに生える多年草。根の断面は鮮やかな黄色。ゴカヨウオウレンはバイカオウレンの別名、5弁の花と5深裂した葉の姿から名づけられました。屋久島固有種とされていますが、バイカオウレンに含める見解もあり、北と南に隔離分離する代表的存在。日本薬局方に記載されているオウレンの仲間。薬用部位としては、根をほとんど除いた根茎を使用。ベルベリンを含み、健胃薬、止瀉薬に使われます。屋久島では昔これを採取して大阪の薬問屋に卸していたという記録もあります。現在ではそのときに採り尽くされた為か大きな株は残っていないようです。

キランソウ(シソ科)

■キランソウ(シソ科)
庭や畑に多い多年草。紫の小さな花が一斉に咲くと美しく、花に近づいて見ると紫の羽織袴をまとった小さな人形のように見えます。薬用としては開花期に地際から刈り取り天日に乾燥して保存します。効き目としては、咳止めや下痢止めなどで、“イシャイラズ”の別名もあり、民間薬で人気があります。

サツマサンキライ(ユリ科)とサルトリイバラ(ユリ科)
サツマサンキライ(ユリ科)とサルトリイバラ(ユリ科)
サツマサンキライ(ユリ科)とサルトリイバラ(ユリ科)

■サツマサンキライ(ユリ科)とサルトリイバラ(ユリ科)
海岸近くの林内に見られる常緑のつる性低木。2種とも葉が似通っていて、島では両方の葉を「カカラ」とよびカカラ団子を作ります。団子と名前が付いていますが、丸い団子ではなく、むしろ柏餅のように葉に餅を挟んで蒸し揚げます。両者の見分け方は、実の色がサツマサンキライは黒紫(写真上段)で、花は黄赤色の小花で球形に集まって咲きます。(写真中段・蕾の状態)1月撮影に行ったときは、黒紫色の実と花が別の樹であったのですが一緒に見ることが出来ました。

一方サルトリイバラは、真っ赤な実を付け(写真下段)、花期はもう少し後で、黄緑色の花です。薬用になるのはサルトリイバラの根茎で、解熱、消炎などに使われます。民間では昔梅毒の薬として用いられたそうです。日本薬局方収載のサンキライ『山帰来』は、同属植物です。

注釈:カカラ団子・・・米1kとヨモギ700g(先につぶして湯がき、ソーダを入れてもみ洗いをし、ミキサーでつぶしたもの)と砂糖1kをこねて、葉に包み柏餅のように葉に包んで蒸します。昔は、祭り(5月の節句など)の時に作りました。